高校生・進学希望の方へ
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高校生の皆さんへ
看護科学ってなんでしょう?
看護科学というのは、人の身体、心、他者や社会とのつながりがもつ力を引き出し、どのような状況であっても「健康で幸せ(well-being)な生活」を実現できるように支援する実践科学です。栄養・薬理・疾病治療・生涯発達・心理・コミュニケーション・文化・社会・情報・自然環境など、人間をとりまく基本的な教育を身に付け、患者さんの生命と安全を守るため、患者さんを中心に考えるための系統的な思考を学びます。また、健康な人や、病気ではない人に対しても、健康増進のため、健康行動や予防行動を実践につなげていきます。
一般の人が持っている看護師のイメージとのギャップ
看護師について、高校生の皆さんはどのようなイメージを持っていますか。
夜勤等の激務に象徴される「大変そう」なイメージや、今まで多くのマスメディアが描いてきた「医者の助手」といったイメージに留まっていませんか。入院経験のある人は、看護師の役割をもう少しお分かりだと思います。24時間、チームで患者さんのケアにあたり、体調・病態の変化を適切に評価して、必要なケアをしてくれる人ですよね。おもしろい研究があります。Linda H. Aikenらにより2003年にアメリカ医師会誌(JAMA)で「大学卒の看護師が10%増えると患者の死亡率が5%減る」という研究が発表されました。同様の結果が2014年に英国のLancet誌で報告されています。このように、患者の命を守るためには看護師の教育レベルの向上が必須であることがわかります。
なぜ看護科学専修が東大医学部健康総合科学科の中にあるのでしょう?
大学に入ると今まで思っていたような看護師のイメージとは違うと気づきます。健康問題を考える場合、どのような知識を勉強したらいいと思いますか。生命科学を基盤に対象者をミクロからマクロまでの視点で捉え、それを取り巻く社会環境との関連を考える必要がありそうです。そういった看護科学の実践者、研究者を育てるために、東大には看護科学専修があるのです。
是非、東大の看護科学専修に来て一緒に勉強しませんか?
看護職という職業に興味がある皆さんに、看護科学とはどのような学問で、看護職とはどのような職業なのかを知ってもらいたいと思います。将来の選択肢も様々(臨床、研究、政策・行政など)で、勉強してく過程でも人間力が鍛えられます。
ここは、東大入学時の全科類から進学が可能です。
また、医学部健康総合科学科では、一般入試(前期日程)とは別に、推薦入試を実施しています。
推薦入試では、書類審査と面接により合格を判定します。
推薦入試の合格者は、当学科が指定する 科類に分かれ、教養学部に所属して前期課程の学修を行います。前期課程修了後は、出願時に志望した学部・学科等へ進学します。
推薦入試の詳細はこちらのページをご覧ください。
研究紹介
高齢者在宅長期ケア看護学
成人保健・看護学教室では、高齢者とその家族への長期的な看護(long-term care)について幅広く研究に取り組んでいます。現場への還元を常に念頭に置き、海外や他の学問領域からの借り物だけでない看護学の構築を目指しています。特に、在宅および長期療養施設におけるケアの質保証・改善と、ケアスタッフ・利用者双方のウェルビーングの両立、事例研究による新たなケアの知の構築、地域共生社会における看護実践の新たな展開、の3領域を主な柱に据えています。
高齢者の多くは在宅および長期療養施設で過ごしていますが、急性期の一般病院における看護と比較し、在宅および長期療養施設における看護の質保証はあまり開拓が進んでいません。私たちは、在宅および長期療養施設のケアの質の指標を開発し、その活用を通じて、社会においてあらゆる人々が等しく質の高い看護・ケアを受けられるしくみづくりを追求しています。また、看護・ケアの実践には、個別事例を検討することによってしか得られない知がありますが、事例の検討は従来の科学観のもとでは科学性が低いとされ、その価値が軽視される傾向がありました。そこで私たちは看護・ケアの知を構築する事例研究のあり方についても、その学術性を含めて、事例研究を通じた看護・ケア質改善などのとりくみを、多領域の研究者と協働で実践しつつ検討を進めています。
また、超高齢社会となった日本では、看護も従来の提供システムを超え、新たな展開を目指すことが望まれています。私たちは、Nurse Practitionerなど高度な専門性を有する看護職のケア提供の在り方や、地域における看護実践の展開、さらには看護の視点からのまちづくりへの貢献など、先駆的事例を検討しつつ、地域共生社会における新たな看護提供のあり方を検討しています。
<研究室で実施している研究の紹介>
1. 在宅および長期療養施設におけるケアの質保証・改善とケアスタッフ・利用者双方のウェルビーング両立
在宅および長期療養施設等で汎用可能なケアの質指標quality indicatorsの開発
標準化質指標の活用によるケアの質管理システムの開発
長期療養施設スタッフ・利用者双方のウェルビーング向上研究
2. 事例研究による新たなケアの知の構築
事例研究ワークショップ(「ケアの意味をみつめる事例研究」ワークショップ)
現場の看護職・介護職との協働による事例研究の発表
病院看護のラダーシステムを通じた事例研究の実践
3. 地域共生社会における看護実践の新たな展開
Dementia Friendly Communityの実現を目指したまちづくり
介護と仕事の両立を目指した職場づくりの検討
地域における先駆的看護実践の事例検討
精神衛生・看護学教室
精神看護学は、人の「精神」、「こころ」の健康や、「気持ち」のあり方に広く関わる領域です。精神的な不調について考えたり、精神障害や精神疾患があっても自分らしく生きるありかたを考えたり、精神健康の不調があってもなくても、より活き活きと暮らすには?といったことを考えることも、精神看護学に含まれます。
「こころ」や「気持ち」、「精神」は、生きている人全てにあるものです。従って、精神看護は、国籍、文化を問わず、どこの地域でも、どのライフステージ(学童期、思春期、青年期、成年・壮年期、老年期などの段階)でも、重要な領域です。また、精神看護学は、こころの健康(メンタルヘルス)に取り組む領域であり、医学、心理学だけでなく、社会学や哲学などとも関わる学際的な領域です。
<研究室で実施している研究の紹介>
精神衛生・看護学教室には精神保健学分野と精神看護学分野があります。そのうち精神看護学分野で取り組んでいる研究や実践は多岐に渡りますが、大きく2つに分けることができます。
一つは、「精神健康の不調を有する人のリカバリー」です。ここでいうリカバリーとは、疾患や症状がなくなることや、機能が戻ることを指すのではなく、自分の送りたい人生、ありたい姿へと近づく過程を指していて、この「リカバリー」は、国際的にも重要な考え方となっています。私たちは、精神的な不調(精神健康の困難とも言います)を抱えている人が、自分にとっての良い状態へと近づいていくために助けとなることを研究し、実践しています。たとえば、精神的な不調のある人が自分の健康を自分で把握し自己管理するプログラムや、自分のありたい状態へと近づいていく場やコミュニケーションの方法についての研究を行っています。
二つめは、「精神疾患や精神障害と社会」についてです。精神疾患と呼ばれているものは、文化や社会の中で定義されるものです。また、環境や他者との関わりの中で困難や不調和が強まったり弱まったりするという側面があります。このため、社会の中で、精神疾患はどのように扱われているかなどを考察しています。
また、精神疾患や精神障害を有する人の経験による知恵と、医療や行政の情報などを合わせてよりよい医療やよりよい社会を作っていけるのではないか、と考えて、共同創造(コ・プロダクション)に関する研究を行っています。
大学院生や教員だけでなく、学科生も、各自のテーマに卒業研究で取り組んでいます。
基礎看護学教室
当教室は昭和29年に開設され、看護界のリーダーを多く輩出してきた歴史を持っています。「基礎看護学」は、看護とは何か、看護の対象である「人」はどのような存在か、これからの社会や人々の生活・健康のために看護が果たせる役割は何かなど、看護の主要概念や価値、理論、技術、あり方を追究し体系化する学問です。大学院では「看護管理学分野」と「看護体系・機能学分野」を担当しています。「看護管理学」は、患者だけでなく働く人や地域社会も含む関係者すべてとその未来に「健康で幸せ(well-being)な生活」をもたらすことを目指し、働く人や集団、道具や環境(政策を含む)、プロセスにアプローチする方法論を開発する学問です。そして、「看護体系・機能学」は、社会の変化、科学・技術の革新の中で看護が提供できる価値、機能、可能性を追究し、新しいモデルや技術を開発する学問です。
<研究室で実施している研究の紹介>
私たちは、患者、看護職及びその他の医療従事者、組織、社会のすべてに幸せをもたらすために、人や組織が潜在的にもつ力を最大限に引き出す仕組みや方法を明らかにすることを目指しています。そのために、私たちの研究領域は看護師個々の看護ケア技術から、ケアを取り巻く環境、看護職を支援するシステムや組織にまで広がっており、人々の健康を支援する看護の新しいモデルや技術の開発や、看護を取り巻く組織・社会としてより良いシステム・環境を整えるための研究に取り組んでいます。
主な研究テーマ
- ケアの根拠となるメカニズムの解明
- デバイスを用いたケアの可視化
- 新しい看護技術・デバイスの開発と検証
- 新しいサービス・システムの開発と検証
- 看護職のキャリア発達支援
- 看護組織の持続可能性のための社会・組織システム
- 医療・看護の質(構造―プロセス―アウトカムの関連の検証)
地域看護学教室
地域看護学教室は、平成4年4月に開設された講座です。地域看護学は、地域で生活している人々や在宅療養者の看護ニーズを、個別的に、また家族として、さらにコミュニティ全体として捉え、健康やQOLの向上に寄与することを目的にしています。
少子高齢社会では、高齢者の自立支援や介護予防の取り組みと共に、心身に障がいのある人々が住み慣れた地域で、生活を維持できるような地域ケアシステムを作ることも重要です。一方、子ども達が、健やかに発育・発達できるように地域全体で支援することも求められています。
当教室が取り組んでいる研究は、この様な社会や時代のニーズに対し、暮らしやすい社会を作ることに貢献しています。また、こうした地域作りの担い手である保健師の育成を修士課程の「保健師教育コース」で実施しています。
<研究室で実施している研究の紹介>
1. 「乳児の股関節脱臼の見落としゼロ」プロジェクト
新生児訪問において地域看護職(保健師・助産師・看護師)が股関節脱臼を早期発見するためのスクリーニング体制の構築と、早期治療に向けた多職種・住民協働型システムの開発
2. 実践の改善・ケアシステム構築に関する課題
ICTを用いた保健師活動アルゴリズム及び評価手法の開発、地域包括ケアシステムの開発など
3. ライフステージとそれに関連する課題
乳幼児の傷害予防、地域での認知症教育プログラム普及など、地域住民の健康を守るためのプログラム開発・評価
4. 専門職の能力・技術の開発等に関する課題
保健師による施策化・事業化、保健師の技術・暗黙知の解明など
5. 従来の枠組みに当てはまらない先端的な課題
VRを用いた家庭訪問学習教材の開発など
家族看護学教室
家族看護学は、その名の通り、「家族」を対象とした看護を志向する新しい専門領域です。看護学は、母性看護学、小児看護学、成人看護学、老年看護学といった個人のライフステージに応じた看護を追求するものが主ですが、家族看護学は、個人のどのライフステージにも関わり、「家族」という集合体を看護するという特徴があります。
私たちは、家族看護学を「家族員の健康問題、発達課題、また家族が直面する様々なライフサイクル上に起こり得るイベントによって脆弱性が高まった時に、その家族全体を看護の対象とし、家族が本来持っている力を高めるように支援し、ケアを実践する学問」と定義して、個人や家族のWell-beingを目指して、家族が潜在的・顕在的にもつ力を最大限に引き出せるような仕組みや方法を明らかにするために取り組んでいます。
<研究室で実施している研究の紹介>
家族看護学教室では、大きく4領域の研究を行っています。これらの研究を中心として、様々な状況にある個人と家族のレジリエンスを高める看護や支援を追求し、日本だけでなく世界へと発信しています。
1. 家族形成期のメンタルヘルス
家族形成期にあたる、妊娠、出産、育児という一連の出来事を通して、母親だけではなく父親も含めた精神的支援に関する研究を行っています。
2. 小児がんをもつ子どもと家族
小児がんをもつ子どもと家族は、発症・診断を受けてから、入院・検査・治療、フォーローアップとそれぞれの時期に課題があるため、当事者の視点・価値観にあわせた支援に関する研究を行っています。
3. 小児慢性疾患患者のトランジション
小児慢性疾患患者が成人を迎えるにあたり、自分の疾患を理解し、疾患管理を主体的に行えるようになること(Transition)、また、身体・心理・社会的発達に伴って、適切なタイミングで成人診療科へ移行(Transfer)することを目的に、臨床実践と研究に取り組んでいます。
4. 家族の暴力(Family violence)
暴力がない社会、暴力を受けた当事者が心身・社会的に健康を回復できる社会の実現を目指して、様々な角度から、家族の暴力(Family violence)に関する研究を行っています。
母性看護学・助産学教室
母性看護学・助産学分野では、母子の健康および女性の生涯を通じた健康を維持・向上することを目指して研究・教育活動を行っています。
女性のライフステージの中でも特に、妊娠・出産・子育て期の健康問題は、女性のその後の健康や家族のみならず社会全体の健康問題にもかかわってきます。現代においても、途上国では妊産婦・乳児死亡率は高く、世界的な問題となっています。一方、日本国内においては出産の高年齢化、ハイリスク妊娠の増加、少子化など未解決の問題が山積しています。母性看護学・助産学は、世界および日本の妊娠・出産・子育てをめぐる課題を解決し、次世代育成に貢献できる学問分野です。妊娠中から出産、子育て中の女性や新生児、家族へのケアを中心に、幅広い研究を行っています。
助産師教育コースでは、講義・実習を通して、専門職としての助産師が行う助産実践に必要な項目(助産師教育のミニマム・リクワイアメンツ*)を学び、妊娠・分娩・産後の母子の助産診断とそれに基づくケア、出産・育児期の家族へのケアを実践する能力を習得することができます。病院だけでなく、助産院など地域に根ざした出産の場での実習もあります。
助産実践能力をもち、臨床現場を改革していくことができる研究者の養成を目指しています。
<研究室で実施している研究の紹介>
研究では、母子や女性の健康支援を推進するために、以下3つのステップで研究を実施しています。
<Step1: ニーズ・実態調査>
- 健康的なライフスタイル(適切な栄養・体重管理・運動・身体活動・睡眠・メンタルヘルス)に関する研究
妊娠中の女性の睡眠に関する実態調査 - 院内助産・助産師外来における助産ケアの効果に関する研究
- 出産恐怖感に関する研究
- 麻酔分娩が新生児の授乳行動に与える影響に関する研究
- NICU・GCUに入院するハイリスク新生児の発育発達・QOLに関する研究
<Step2: 新たなエビデンスの創出>
- 妊娠期の効果的な栄養指導方法の開発
- Virtual Reality教材の助産教育に及ぼす学習効果の評価:日豪乳共同研究
- NICU・GCUにおける医原性皮膚トラブルに関する研究
- 新生児期の皮膚状態とその後のアレルギー疾患に関する研究
<Step3: 新しいケアプログラムの効果の検証>
- 妊娠中のマインドフルネスプログラムの介入効果検証
- 栄養アセスメントに基づく妊婦の栄養指導効果の検証
老年看護学教室
老年看護学分野は平成15年に開講されました。当教室のVisionは「年を取るのも悪くないと思える社会の実現」であり、「我慢させない療養生活の実現」、「自己の苦痛を訴えることができない療養者のため、新しいケア技術の確立」の2つのMissionを掲げています。具体的には、高齢者の老年症候群に対する症状緩和の看護ケア技術の開発をテーマとし、特に寝たきり高齢者に多く発生する褥瘡の予測、予防、発見、ケアに関する技術を開発してきました。平成18年には、糖尿病足潰瘍や、排泄障害に起因する失禁関連皮膚炎など褥瘡以外の重要な難治性創傷に対する看護によるケア可能な技術を確立するため創傷看護学分野が開講されました。現在は、臨床研究を基とし、生命科学および工学の視点を看護学に融合させた看護理工学領域を確立し、機械工学、情報工学、分子生物学等様々な自然科学系の学問分野との融合的研究を推進しています。
患者の症状・徴候がどのようなメカニズムで生じているのかを検証する基礎的研究が看護学領域では世界的に不足していますが、当分野は最新の生命科学の手法を看護学に取り入れ、特に褥瘡や創傷感染発症の分子メカニズムの解明に大きく貢献しています。その成果を基に、臨床で利用可能なリスクアセスメントや同定技術を開発し、製品化するトランスレーショナルリサーチを多く実施してきました。工学的手法としては、各種センサリングに基づく非拘束・連続データに基づくヘルスケアデジタルツイン構想を掲げ、ロボティックマットレスやバイタルセンサ連携コミュニケーションロボットの開発・実装や、サーモグラフィや超音波検査(エコー)による非侵襲的な可視化装置による身体モニタリングを先駆的に行っています。さらに、それらを活用した高度看護実践の支援のため、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)による新たな看護技術教育の開発を行なっています。看護理工学の研究基盤を形成し次世代の看護実践を実現するため、産官学連携研究によるイノベーションを、異分野融合を果たしながら社会に発信してきています。
本邦の看護学に留まらず、世界に向けた次の破壊的イノベーションの創出を目指し、若い力を結集して老年看護学、創傷看護学、看護理工学に貢献し、人々の健康レベルの向上に寄与します。
<研究室で実施している研究の紹介>
寝る、立つ、歩く、座る、排泄する等、人間が生きていくために必須な活動を行うことによって生じる老年症候群(特に難治性創傷)や症状の予防・診断・治療技術の開発
- 滲出液中老化細胞を標的とした選択的創傷治癒促進セノリティクス(学振:基盤(A)、学振DC)
- 難治性創傷の病態解明およびそのマネジメント技術の開発(JST:創発的研究支援事業、学振DC)
- 新規糖代謝促進メカニズムによる糖尿病足潰瘍治癒促進デバイスの開発(学振:挑戦的研究(開拓))
- 寝床環境中の細菌叢は褥瘡感染を引き起こすか:感染発症メカニズムの解明
- 生体センサーに基づく長期センシング技術手法の開発
- VR/AR/MRを活用した高度な看護技術伝承方法の開発(AMED:長寿科学、学振:若手研究)
- 失禁による皮膚炎を予防する新規パッドの開発(学振:若手研究)
- 点滴の血管外漏出の早期発見・予防のための技術開発(学振:基盤(C))