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VRによる認知症教育

高齢化が進む中、認知症の高齢者が増え、「認知症にやさしい地域社会(DFC)」づくりが進められています。医療・介護従事者以外の一般市民やサービス業従事者などが、認知症に関する正しい知識を持ち、必要な支援を行えるような教育が求められています。本研究の目的は、認知症に対する偏見をなくし、認知症の人が支援を必要とする時に支援できるよう、認知症の人の視点でその疑似体験ができるVR(バーチャルリアリティ)技術を用いた教育プログラムを開発することです。本プログラムは地域住民を対象としており、現在、その効果を検証するために地域で試行されています。これまでのところ、認知症の人に対する意識と援助行動を効果的に高めることが実証されています。

看護師に即した可視化技術

Takahashi T, Nakagami G, Murayama R, Abe-Doi M, Matsumoto M, Sanada H. Automatic vein measurement by ultrasonography to prevent peripheral intravenous catheter failure for clinical practice using artificial intelligence: development and evaluation study of an automatic detection method based on deep learning. BMJ Open. 2022;12(5):e051466. doi: 10.1136/bmjopen-2021-051466. 

Abe-Doi M, Murayama R, Komiyama C, Tateishi R, Sanada H. Effectiveness of ultrasonography for peripheral catheter insertion and catheter failure prevention in visible and palpable veins. J Vasc Access. 2021:11297298211022078. doi: 10.1177/11297298211022078. Epub ahead of print. PMID: 34075824.

看護研究において、可視化することは最も大きな課題の一つです。患者の体内で起こっていることを可視化できずに重篤な結果をもたらす可能性がありますが、超音波によるポイントオブケアテストは、この問題を回避する革新的な方法です。超音波は患者に非侵襲的でリアルタイムに対象を可視化することができ、看護ケアとの親和性が高いです。これまで、褥瘡、排泄、嚥下、カテーテル管理、検診など多くの看護対象が可視化され、現在の臨床現場での爆発的な普及を目の当たりにしています。また、看護師がより使いやすく、効率的に使えるように、機械学習をベースにした画像解析の自動処理AIの作成にも取り組んでいます。

VRを活用した看護師・助産師教育

バーチャルリアリティ(VR)は、視覚や聴覚などの感覚刺激を通して体験することができる人工的なコンピュータ生成環境と定義されています。今後、看護・助産教育への普及が期待されていますが、世界的にはまだまだ初期段階といえます。  現在、VR技術の助産・看護分野への応用を広げるための国際共同研究を行っており、また、東京大学大学院医学系研究科臨床情報工学分野の協力を得て、VR教材の開発も行っています。私たちの研究チームは研究成果や新技術が看護・助産教育に役立つことを願っています。

Gray M, Downer T, Hartz D, Andersen P, Hanson J, Gao Y. The impact of three-dimensional visualisation on midwifery student learning, compared with traditional education for teaching the third stage of labour: A pilot randomised controlled trial. Nurse Educ Today. 2022 Jan;108:105184.

AR(拡張現実)MR(混合現実)による現場支援と教育

通常、バーチャルリアリティ(VR)学習には、高価なシミュレーターが必要ですが、東大看護では、ヘッドマウントデバイスを含む最新のVR機器を導入し、コストをかけずに看護体験をシミュレートして重要な看護スキルを学ぶことができます。従来の受動的なVR体験だけでなく、時間や場所を選ばず学習できること、ハンドトラッキングによる能動的なスキル習得が可能なことなどが特徴です。学部教育だけでなく、病院や訪問看護の現場でも実際の業務に取り組みながら育成可能なオン ザ ジョブ トレーニング(OJT)として展開されています。これは、未来の教育ではなく、現在行われている看護教育におけるデジタルトランスフォーメーションのひとつと言えるでしょう。

Takahashi T, Kitamura A, Matsumoto M, Higashimura S, Nakagami G, Sanada H. Introduction of augmented reality to the remote nursing consultation system for wound care. J Wound Care (accepted)

リアルワールドデータにおける人工知能(AI)解析

Nakagami G, Yokota S, Kitamura A, Takahashi T, Morita K, Noguchi H, Ohe K, Sanada H. Supervised machine learning-based prediction for in-hospital pressure injury development using electronic health records: A retrospective observational cohort study in a university hospital in Japan. Int J Nurs Stud. 2021;119:103932. doi: 10.1016/j.ijnurstu.2021.103932.

データはどの大学においても重要な研究の要素ですが、実社会との関連性が認識されないことがよくあります。そのため、東大看護では、データを学問や科学文献だけでなく実社会に適用するための努力を重ねています。例えば、私たちのプロジェクトには、リアルワールドデータ分析における人工知能(AI)の有用性を検証するものがあります。具体的には、東京大学医学部附属病院企画情報運営部と共同で、電子カルテに入力された大量の臨床情報を収集しAIに学習させることにより、これまで知られていなかった褥瘡発症の危険因子(日常生活動作の困難さ、食欲不振)を特定することに成功しました。臨床に直結するデータ収集に積極的に取り組むことで、科学的な知識ベースを高め、より良い結果につながる看護の即効性をさらに高めていきます。

難治性創傷の予測と予防のためのスマートドレッシング

難治性創傷は高齢者で多く発生しますが、発症のメカニズムが不明なためい予防が困難とされています。そこで、創部から分泌される滲出液に創傷治癒を促進または遅延させる成分が含まれていることに着目し、滲出液中の生細胞からマルチオミクス解析により難治性創傷の原因因子を特定します。私たちの研究チームは滲出液中のバイオマーカー濃度を常時モニタリングし、創傷治癒を妨げず自動的に最適な治療を行うスマートドレッシングを開発し、難治性創傷を根絶することを目指しています。

産学連携による製品開発

私たちの研究チームは産学連携による製品開発にも関与しています。東大看護は、産学連携による製品開発という独自の強みをもっています。これは、学際的なアプローチですが、私たちの研究チームで開発した製品は現場や患者のニーズを考慮し設計されており、患者の生活の質を向上させるものです。例えばロボティックマットレスは、患者の荷重に応じて自動的に圧力分布を調整するセンサーとポジショニングセルのシステムを通して、患者の体位に応じて自動的に空気圧を調整し、快適さを最適化するものです。この製品は、体位変換に伴う痛みを軽減するだけでなく、褥瘡予防にも貢献します。 さらに、企業との共同研究による成果を生かした製品として失禁患者が着用する吸収パッドがあります。これは尿や便と皮膚との接触を効果的に最小限に抑え、皮膚への刺激を軽減します。大王製紙株式会社との共同研究により、吸収効率を高めるさまざまなパッドを開発しています。尿をスポット的に吸収するタイプや、軟便吸収に優れた表面シートと吸収体の積層構造のパッドなどです。

LEIOS, a robotics mattress for puressure injury prevention, co-developed with Molten Co. Ltd.

三枝稔彦、野口博史、中上剛、森俊之、真田広之:健常者における界面圧マッピングシステムおよび内気泡自動調整機能付きロボットマットレスの使用に伴う快適性の評価。J Tissue Viability. 2018;27(3):146-152. doi: 10.1016/j.jtv.2018.06.002.
東京看護と大王製紙のコラボレーションによる特殊な吸収効率の良いパッドです。
高齢女性の失禁関連皮膚炎に対する改良型吸収性パッドの有効性:クラスター無作為化比較試験. BMC Geriatr. 2012;12:22. doi: 10.1186/1471-2318-12-22.

ケアの意味を明確にするケーススタディ方法論

現在、私たちが開発している「ケアの意味を見つめる事例研究」という研究手法は、その包括的で個別化された文脈に特徴づけられたユニークな知識を共有可能にすることを目的としています。真のケアには、患者の体験に対する相互主観的な理解が必要であり、そのような相互主観性を持つことで、他者である看護師が自分の実践に活かせる対人的な知識の理解を深めることができます。そのためには、ケア提供者の具体的な体験を相互主観的に理解することが必要であり、その手法は従来とは異なる現象学的なケーススタディとなります。

Case study methodology to clarify the meaning of care.